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『対岸の彼女』角田光代〜女同士って、ほんとに大変・・・

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対岸の彼女 角田光代

『ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事』

私が作中で一番印象に残った台詞です。その日のうちに、中学生の娘にこの小説とこの台詞の話をしていました。友達って数じゃないんだよね、いつも一緒にいないといけないなんてそれはちょっと違うよね、なんて話を。

今は小学校1年生から、女の子同士は友達付き合いが大変です。このグループで遊んでいると、他のグループとは遊べなくなるとか、奇数になると誰かが仲間はずれになるとか。

そんな面倒な関係は大人になったらなくなるのかなと思ったけど、そうでもなかったですね。ある意味、大人の方が素直になれない分面倒かも。

そして、些細なことで簡単に崩れる関係。私もちょっとしたことでそれっきり会わなくなった友達がいたなあと思いだしました。ものすごい仲が良かったはずなのに、パタッと途絶えちゃう。

だから、大人になってからは本音を言っても平気な人、いつも一緒にいなくても平気な人、そんな風に自分が楽でいられる人とつき合うようになりました。もう女同士のいざこざには巻き込まれたくないから。

さて、作中では専業主婦だった小夜子が採用面接で独身女社長の葵と出会い、それぞれの立場の違いを感じながらもだんだんと仲良くなっていく様子が描かれています。同い年、同じ大学だったということもあり、昔からの友達だったように小夜子に接する葵。最初は戸惑いながらも、仕事にやりがいを感じ始め、葵とだったらなんでもできるかもしれない、とまで彼女を信頼するようになる小夜子。

それが、ほんの些細なことで・・・。




やっぱり、女性というのは内に溜め込む傾向がありますよね。その場で文句を言ってしまえば済むことを、きちんと相手に真意をただせば誤解も生じないものを、顔では笑いながら自分の中にしまい込むから面倒なことになるんです。

夫や姑にも言いたいことひとついえない小夜子にも、最初はイライラしました。それだからだめなんだよ、って。

でも、言いたいことがはっきり言える人の方が少ないのかもね。特に女性はね。たぶん、文句を言おうとするより先に、傷ついちゃうんだろうね、心が。その傷のせいで、言葉も出なくなっちゃうのかなと思いました。

傷自体は小さいかもしれないけど、魚の骨みたいにチクチクする。だから、それがひっかかって、言葉が出ない。なんで、どうしてって、そんな言葉ばかりが頭の中を駆け巡る。

それで、段々人間関係がこじれていくのかな。

葵と小夜子も色々ありながら、最後は希望の持てる終わり方。これで良かったのかどうかはわからないけど、その答えは小夜子が見つけるんだろうね。

並行して進む、ナナコとアオちゃんの物語も、ああ、どこかで見た光景だと思いました。その物語が現在の葵と小夜子の関係にどう関わってくるのか、もうそれが気になって、最後3分の1くらいは一気読みでした。

男性にはちょっとわかりづらい世界かもしれないけど、かつて高校生だったことのある女性にはうなづく部分が多いかもしれないなと思いました。

▼▼映画化されているのでDVDもあります▼▼

私はまだ見ていないのですが、レビューを見ると原作とはまた違った雰囲気のようですね。女優さんたちの演技が光り、原作者の角田さんも涙を流したとか。

葵は財前直見さん、小夜子は夏川結衣さんです。うん、イメージにピッタリかも。
こちらもぜひ見てみたいと思います。



2016/11/20

角田光代「さがしもの」は本が好きな人におすすめの作品

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「さがしもの」角田光代

本があってよかった。
1度でもそんな風に思ったことのある人なら、この小説の面白さがわかると思います。

面白い、というのはちょっと違うかな。
本がいかに人生を豊かに、楽しく、実りのあるものにしてくれるか。
それを実感できると思います。

短編集ですが、私は表題作の「さがしもの」が好きです。

ちょっと口の悪いおばあちゃん。入院していて、もう先が長くない。そんな状態で孫に本探しを頼みます。タイトルと著者名をメモしたものの、どんなに探してもその本が見つからない。

病院に顔を出すたびに、今日も見つからなかったということがわかると明らかに落胆するおばあちゃん。

もう絶版になっている、というところまではわかったものの、古本屋を巡っても出てこない。そうこうしているうちにおばあちゃんは天国へ。

なぜおばあちゃんはあの本にこだわったのか。
なぜ読みたかったのか。
その理由がわかった時に、憎まれ口ばかり叩いているおばあちゃんだけど、その本当の姿が垣間見えたような気がしました。

本にまつわるエピソードを中心とした短編集は、本が好きでたまらない私には、ほっとできる作品でした。大きく心が揺さぶられる感動、というのではなくて、しみじみと本の素晴らしさというものを実感できる小説です。

本があってよかった。
何度もそう思いました。



2016/11/12

火村シリーズではないけれど一気読みした「作家小説」

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大好きな有栖川有栖さんの短編集。

有栖川有栖さんの作品は、とても読みやすいのだけど、ところどころドキッとするような表現があったり、心に刺さるような言葉があったり、ものすごく奥の深い小説だと思っています。

私は火村シリーズが好きなので、そればかりを読んでいたのですが、ようやく(?)他の作品にも手を広げてみようかと思い、この作品を読みました。

なんともいえず、不思議な短編集ですね。

推理小説じゃないし、単なる小説でもないし、ちょっとホラーチック。「殺しにくるもの」なんて、最後のページで思いっきりどきっとしましたよ。

どれもそれぞれが雰囲気の違う作品で面白かったのですが、私は「奇骨先生」が好きです。

作家というとちょっと取っ付きにくい人や変わった人、個性的な人が多いように思われますよね。奇骨先生もちょっと怖い感じの人ですが、最後は心温まる締めくくりになっていて、何だか気持ちがほんわかしました。

あー、もっと早く読んでおけば良かったなあと思いました。すごく面白かったから。

有栖川作品は、推理の面白さはもちろんなんですが、私はそれぞれの登場人物のキャラクターがすごく好きなんですね。

主役以外の脇役たちもすごくいい味出している。たまに「こんな人とお友達になりたいなあ」と思ったりもします。それぞれの登場人物が生き生きしているから、ストーリーにどんどん引き込まれていくのかなと思います。

次はこの作品のレビューを書こうと思ってます。
▼▼▼

これなんかは、「え、そんなトリック?」って感じですけど、面白いですよ。
けっこう前に書かれた作品なのですが、全然古くない。
▼▼▼

2016/05/31

ロードレースを知らない人でも絶対に楽しめる『サクリファイス』

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ロードレースにはエースとアシスト、という役割がある、
くらいのことは知っていたけれど、それ以上の知識はなく、
物語に入り込めるかなあと思いながら読み始めたが、
あっという間に違和感なくこの世界に入り込めた。

すごい、これ。
ぐんぐん引き込まれる。
たぶん、男性とか女性とか関係ないと思う。
騙されたと思って読んでみてほしい。

ロードレースとはなんと過酷なスポーツだろう。
日本人が好きそうなスポーツなのになあ。
エースを勝たせるために自分の勝利を捨てて”犠牲”になるアシスト。
個人競技のようで、団体競技。
団体競技のようで個人競技。
なんとも不思議なスポーツだ。

テレビでもあまり放映されないから、
ツール・ド・フランスの名前くらいしか知らなかった私でもすんなりと読めて、
一緒にコースを走っているような疾走感を味わえた。

もちろん、これはフィクションだから脚色している部分もあるし、
Amazonのレビューなどでは「ロードレースはこんなものじゃない!」と
噛み付いている方もいらっしゃるけれど、
ロードレースの概要を知ってからレースを見ると
すごく面白いスポーツなんだよ、ということがわかるわけだから、
それだけでも十分なエンターテイメントになっていると思うわけで。

ただ・・・この物語のキーパーソン、石尾さんの人物像、キャラクターに
もう少し踏み込んで描いて欲しかったと思う。
個人的には、すごく好きなキャラなんだ。
ストイックでプロ意識の固まりのような人。
その辺が少し薄い感じがして、”惨劇”の原因が思い切り”フィクション”になってしまう。
もう少し物語として完成されたものにするならば、読み手がもっと感情移入できるよう、
石尾さんのストイックさをこれでもか、と描いてあった方が、ラストに納得がいったかな、と思う。

とはいえ、このスピード感。
ぜひ味わってみてほしい。

2015/07/06

『ツナグ』というタイトルの意味。

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突然この世を去ることになったら、どうだろうか。
心残りがたっぷりあって、誰かに会いたいと思うだろうか。

この作品は、死者とこの世の生者とをつなぐ、その名も「ツナグ」という”職業”のお話。
ある電話番号に電話をかけて依頼すると、亡くなった人に会えるというもので
指定された場所にいくと亡くなった人が待っている。
生前と同じ姿で。
タイムリミットは朝。
ただし、亡くなった人が別の人に”ツナグ”を依頼されていたらもう会うことはできない。
亡くなった側も、生者に会いたいと言われても、会えるのはたった一度。
2人以上は会えないというシステムになっているとのことだ。

「死」がからむと、「泣かせよう」とする話が多かったりするけれど、この作品は、そういうものとはちょっと違う。
泣かせようとはしていない。

私だったらどうするかな。死んだ側ならだれに来てほしいかな。
子どもには会いたいけど、1回しか使えないその権利は別で使ってほしいと思うかな。
ならばやっぱり夫に会いたいかな。
生きてる側なら誰に会いたいと思うかな。
1回しか使えない、その切符をどう使うかな。
そもそも、死んだ人に会うことがいいことなのかどうなのか。
わからないままの方がいいこともあるんじゃないか。

この1冊で、いろんなことを考えた。

たとえば、何かがうやむやなまま誰かが亡くなってしまったとしても
それを明らかにすることがいいことなのかどうか、
知らないままでいることも幸せなのではないか。

この世とあの世との違いを生きながら見せられたような気がした。
あの世に行くってことは、いろんな心のこりを引きずっていくんだろうなと思う。
自分自身の人生んは満足していたとしても
やはり残された家族や大切な人のことは気にかかるだろうから。
どんなことがあろうとも、今ここに生きていることを大切にしないといけないなと思った。

この作品は映画化もされているのね、
松坂桃李さん主演です。
うん、本の中の主人公よりは年がいってるけど
イメージはまずまずあっているのではないかと思います。
(実はまだ見ていないのだ。)

これはぜひTSUTAYAに行って借りてこなければ、と思っております。

2014/07/06